科学の光で照らせ 2018

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 大型放射光施設SPring-8の一般公開に久しぶりにお邪魔しました。

 過去の記事はこちらをご参照ください。
 2012年
  その1(SPring-8 線形加速器)
  その2(SPring-8 シンクロトロン)
  その3(SPring-8 蓄積リングとビームライン)
  その4(New SUBARU)
  その5(XFEL SACLA)
 2013年 記事(New SUBARU 蓄積リング)
 2014年 記事(SPring-8、SACLA、New SUBARU)

加速器棟
 SACLA加速器棟

 コヒーレントな光であるレーザー光の短波長化は光科学の大きな到達目標でした。硬X線レーザーを実現したのがSPring-8に隣接して建設されたSACLA(SPring-8 Angstrom Compact Free-Electron Laser)です。実際にレーザー光発振に2011年6月に成功し、2012年3月から供用が開始されました。
 今回はいままでアンジュレーターのある光源棟だけだったSACLAの一般公開が基点の電子銃や加速器を含めた全てが初めて一般公開されました。

電子銃
 電子銃

 一見、巨大な鉄の箱にしか見えませんがホウ化セリウム(CeB6)電極をグラファイトヒーターで1450℃まで加熱したカソード電極と電子を放出させる500kV/1Aの出力を持つ高圧系が絶縁油の中に収められています。ここから1nsのパルス幅で毎秒60回の500keVのバンチを打ち出します。

Lバンド
 加速空洞(Lバンド 1428MHz)

Sバンド
 加速空洞(Sバンド 2856MHz)

Cバンド
 加速空洞(Cバンド 5712MHz)

 高純度無酸素銅を1μmの精度で加工した加速空洞は350kVの強い電界を達成してコンパクトな加速器で電子を最終的に8GeVまで加速します。1つの加速管で130MeVの加速を行うことができます。
 

 加速は高周波で行いますが、その高周波発生源に用いられているのがクライストロンで、加速器室の外側(クライストロン・ギャラリー)に設置されています。

クライストロン
 クライストロン

クライストロン電源
 クライストロン電源

 クライストロンの出力は50MWあり(SPring-8の直線加速器は80MW)、その出力を支えるためにキャパシタと高性能な電源により実現しています。電源部は大電力、高い動作速度を要求される事からSiC MOSFETが採用されているそうです。ちなみにクライストロンは東芝製です。
 クライストロンそのものはSPring-8の直線加速器に用いられているものよりもだいぶ小さいサイズとなっており電源もコンパクト化されています。

 このクラスの高周波大電力装置はさすがにトラブルも発生する率が高く、運用初期では加速管での放電、クライストロンカソード部での放電のほか、パルス作成のためのスイッチに用いているサイラトロンの自爆などによって運転が停止する事があったとの事ですが、現在ではトラブル発生後の復旧手順も含めて改善されており、安定した供用に利用できる状態になっています。

ビームダンプ
 ビームダンプ(BC1)

 電子銃から打ち出されたバンチを廃棄するためのビームダンプ(50MeV対応)。
 これはバンチ圧縮をするBC1の後方に設置されていて、不要なバンチや状態の悪いバンチをSバンド加速空洞に通す前に廃棄するためのものです。ここのビームダンプで廃棄されるバンチは30MeVまで加速されています。

シケイン
 シケイン(BC2)

 SACLAの加速器中では三ヶ所設置されているバンチ圧縮装置(Bunch Compressor:BC)で写真のBC2はSバンド加速空洞の後段に設置されているものです。
 エネルギー差を利用して電磁石により電子の方向を変える事で経路を変えて時間方向の圧縮を行う事でバンチ中の電子塊を圧縮します。
 偏向電磁石を通過するとエネルギーの大きい電子は偏向角が小さく、小さい電子は偏向角が大きい事を利用して経路の長さを変える事で加速時のエネルギー差により時間軸方向に広がった電子塊を圧縮する機能があります。バンチを曲げて迂回させることからシケインとも呼ばれています。

キッカー電磁石
 キッカー電磁石

ビーム分岐
 ビーム分岐

XSBT
 SPring-8へ(XSBT)

 開設当初は中央のビームラインBL3しかありませんでしたが、ビームライン増設とSACLAで加速したバンチをSPring-8に供給するためのラインが増設されました。
 当初新設のBL2とは時間を区切ってBL3とのビームの切替運転を行っていましたが、バンチ振り分けをキッカー電磁石を用いてリアルタイムで行う事が可能になり、BL3とBL2は同時に使用できる状態となりました。

 左のラインBL2は新設されたもので、計画では全部で5本のビームラインを設置する事になっています。向かって右側の大きく曲がったラインがSPring-8に行くラインXSBTです。SPring-8の蓄積リング側は過去の記事で紹介していますが、そこまでの経路は建家の壁をぶち抜いてムリヤリ通しているとの事。既存の施設に増設となるため仕方がありませんが。
 SACLAの加速周波数は79.3MHz(79,333,320Hz)の整数倍である5712MHz、SPring-8の加速周波数は508.58MHz(508,579,360Hz)、旋回周波数は208.78KHzでありそのままでは同期が取れないためビーム入射のために同期させる必要があります。

ビームラインBL3
 ビームラインBL3

 世界で初めて発振に成功した自由電子X線レーザーはこのライン(BL3)で生まれました。
 ずらっと並ぶ真空封止型アンジュレーターによりX線の波長と同調した電子の相互作用によって増幅する自己増幅自発放射(Self-Amplified Spontaneous Emission : SASE)によりコヒーレントなX線を発生させています。現在発生できる光の波長は0.63Åであり、これは他のXFEL施設に比べてもっとも短い波長のX線レーザーとなっています。

アンジュレーター
 真空封止型アンジュレーター

 日本が誇る独自技術である真空封止型アンジュレータ。磁石を真空に対応し、ギャップの開閉が可能な高度な組立技術を必要とするものですが、開発し実用に成功したのは日本が初めてです。国内では高エネルギー加速器研究機構(KEK)を初めとし、SPring-8とこのSACLAのほか、海外にも続々と納入されているようです。
 SACLAの真空封止型アンジュレーターは日立金属製なのですが、1つだけNEOMAXのものが入っています。日立金属の関連会社で磁石に特化した製品を製造開発している会社で製造はNEOMAXが行っている事から、納入時に1つだけ自社ロゴのものを入れたようで、メーカーアピールのためだと思われます。

ビームラインBL2
 ビームラインBL2

 新規に増設されたビームラインで2015年3月から供用開始しました。
 ライフサイエンス系を中心とした利用実験を目的とし、BL3と同様に1μmの集光装置を備えています。いままでBL3のみの運用では、実験毎にシステムをバラして組み立て直す必要がありましたが、ビームラインが増えた事で長期の利用実験を行う事ができるようになりました。

SXFEL
 SXFEL(BL1)

 SACLAに先立ち実証実験として長さ約1/12のSCSS(SPring-8 Compact SASE Source)が別棟(組立調整実験棟)で建造され250MeV加速器による真空紫外線レーザーの発振に2006年に成功。加速器、光源、利用運用などの様々な試験研究が実施されましたが、2013年5月に運転を休止しました。その装置を移設し800MeVまで増強改良して軟X線のXFELのビームライン(SXFELビームライン)を構築し、2016年から利用運転を開始しています。
 このビームラインによりBL2,3により発生する硬X線FELに加えて軟X線FELを同時に独立して利用できる事になり、より利便性が上がりました。

 光学棟にはBL1からBL5まで全部で5本のビームラインを設置するスペースがあり、現状はSCSSからSFEXLとBL2、BL3が設置されています。

実験ホール
 実験ホール

 アンジュレーターで発生したX線レーザーはこの実験ホールで活用されます。
 実験ホールの手前には全反射ミラーを利用した集光装置が置かれ、数μmから最小で1μmまで絞られて利用できるようになっています。

MPCCD
 MPCCD
 撮像にはCCD素子を用いて通過してきた光を捉えます。
 撮像部はバリエーションがあり、その一部が展示されていました。左下の小さい方が画素数1024x1024でCCDパネルを2枚使用したもの、右側の大きいものは画素数2048x2048でCCDパネルを8枚使用したもので、撮像した画像(X線回折像)はポートアイランドにあるスーパーコンピュータ「京」を用いて処理されているそうで、近い将来にはスケールダウンした「京」を設置して処理する予定になっているようです。

 今回はSACLAの電子銃から加速器、ビーム分岐部、アンジュレータから測定部までの端から端までを見ることができて大変有意義でした。それにしても直線距離で700mの端から端までは長かったです。巨大科学施設というのは全てが遠い(笑)。SP-ring8のビームライン棟は移動に自転車を使っているぐらいですし。

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